元・自動車商品企画者のひとり言

クルマのデザインについていろいろ考えることが多いので、勝って気ままに書いてみることにした

マツダ MX-30 - 無機質な魂?

マツダはデザインの完成度の高さを標榜しているだけあって、あまりデザイン的に突っ込みどころがないので取り上げる機会はないと思っていたのですが、MX-30はこれまでのマツダとは違う物を感じるので、それが何なのかについて考察してみたいと思います。

 

はじめに

マツダは、ブランド内のデザインの統一感が国産メーカーの中ではあるほうだと思いますが、ディテールに共通の要素は採用しているものの、ドイツ御三家のように、デザイン言語を決めてそれをすべてのモデルで活用するという手法ではないようです。それでもこれまでのクルマに共通したマツダらしいデザインを感じさせていたのは、彼らのデザインフィロソフィーである「魂動」デザインによるものです。これは簡単に言うとクルマに魂を吹き込む、生命感が感じられるデザインを追求するということです。

 

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サイド・ビュー

他のモデルとデザインの方向性が違うなという漠然とした印象はサイドビュー全体からも感じられます。直線を基調としたデザインは無機質な印象があり、マツダのフィロソフィーの「生命感」が感じられません。

そして目に付くのが幅広で上面をフラットにしたブラックのホイールアーチ・モールディングです。ここも角張った造形で、とても力強くて「タフ」な印象を受けます。また、このホイールアーチ・モールディングと一体となったシルおよび前後バンパー下部のブラックパーツにも目がいきます。ボディカラーの面積が軽減するので視覚的重たさが減るのですが、それと同時に「プロテクター」のように見えますので、「がんがん使える道具」的な機能性を連想させます。

ディテールの話から入りましたが、あらためてプロポーションを見ていくと、最近のクルマで気になる、Aピラーと前輪の間の距離は横置きFFの割にはとれています。先述の幅広なホイールアーチ・モールディングが収まっています。そしてフロントオーバーハングも健闘していると思います。ただ、リアのオーバーハングとのバランスでいえば、リアはもう少し長くしたほうが余裕が感じられるところですが、全長が長くなってしまいますのでこんなものでしょうか。

リアはバックガラスをかなり寝かせてファストバック的なプロポーションとしています。SUVはスポーツ「ユーティリティ」ビークルなので、荷室という「ユーティリティ」を考えると、このプロポーションはちょっと変化球です。 メルセデルのGLCクーペ、BMWのX4のような狙いでしょう。

実際の荷室容量は調べてませんが、視覚的には間違いなく普通のSUVよりはリアのボリューム感が少なくなっています。一方でフロントのヘッドライト、バンパーはかなり直立した面にしています。フロントはSUVらしい力強さは出るのだと思いますが、リアが軽快な割にノーズのボリューム感がちょっと多いかなと感じます。

サイドのデザインにインパクトを与える要素としては、いわゆる観音ドアが採用されている点があります。しかしその狙いなどを考えだすとクルマのコンセプトに深く関わってくるので、マツダが言う通りお客さんが自由な発想で使うためということにしておきましょう。

キャラクターラインはというと、あまり明確な物は入っていません。躍動感とか安定感とか意図的に感じさせないところも、機能的な潔さを感じます。キャラクターラインがないとボディカラーの面積が増える部位で重たさを感じることが多いですが、MX-30ではルーフを別カラーとして、さらにはその見切りの意味もかねてCピラーにガーニッシュを入れることで、明確なキャラクターラインがなくても重たさは感じません。

一度気づくと気になるのがホイールアーチ・モールティングが前後で結構太さが違うところです。これも後ろ半分のボディカラー面積のバランス調整が狙いなのでしょう。

 

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フロント・ビュー

フロントも極力デザイン要素を減らそうとしているのがわかります。ユニットを共用しているというのもあるのでしょうが、フロントのターンインジケーターはスリムな形状の物をバンパーのブラックアウト部にいれることで目立たなくしています。空気取り入れの開口部もブラックアウト部に収めているので、とてもすっきりさせることが出来ています。

最近のマツダが採用している、グリルのクロームフィニッシャーがヘッドライトまで回り込むという手法は採用していません。それどころかグリルにはクロームの部位がありません。薄型のグリル、そしてそれがヘッドライトと一体的にデザインされ、クロームという華美な処理を採用してないというのは、とてもスポーティな処理です。

 

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フロント・クォーター・ビュー

しかしながら、高さ的にボリューム感のあるノーズにスリムなライト、グリルを採用しているので、その下の厚みの処理に苦労してます。下部のブラックアウトも結構な高さまで適用してますが、それでもバンパーのボディカラー部のボリューム感はかなりあります。

ボリューム感のある顔まわりですと、普通は少なくともグリルは高さのあるもの出してバランスをとろうと思うでしょうが、あえて鋭い目つきに見えるスポーティなデザインのグリルとライトをここに収めてインパクトを出したのでしょう。

ちなみにこの写真だとホイールアーチ・モールディングの大きさの違いは遠近法により目立ちませんが、本当はどの角度から見ても違和感がない造形にしてほしいところです。

 

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リア・ビュー

ここでもライセンスプレートの装着に必要な面以外には最小限のラインしか入れていません。

マツダは他のクルマでもライセンスプレートフィニッシャーのパーティング・ラインを目立たなくさせようと注意を払ってきました。今回はルーフ、Cピラーが別カラーになるのをうまく利用して、上側のパーティング・ラインがほぼ気にならない位置にすることができました。下側はバッジが装着される部位として、目立たないようにした苦労が伺えます。その結果、バックドアは余計なデザイン要素に頼らず、面構成だけで勝負しながらも退屈させないデザインとして仕上がっています。ライセンスプレートをなるべく下方に持っていってエンブレムまわりの面を確保し、存分に表現しています。

しかし、ちょっと違和感がなくもない。ライセンスプレート照明のためにバックドアの表面からライセンスプレートの周りを台形状に一段落としていますが、真後ろから見るとそのラインがリアコンビランプのグラフィックの内側のラインと、さらにはバックドアから外側にボディに回り込んでいるラインとも一致していて、ちょっとくどさを感じさせているのかもしれません。

 

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リア・クォーター・ビュー

リアコンビランプがとても凝った造形になっている事に気づきます。円形に点灯するテールランプはマツダが多くのクルマで採用しているデザイン要素ですが、MX-30では円筒形のランプがボディに嵌め込まれているようでになっています。おもしろいデザインなのですが、ボディ面に無機質な円筒が刺さっているというのはとてもメカニカルだと感じます。他車の例で言えば、フェラーリ458も似たようなデザインです。

先述のブラックのホイールアーチ・モールディングはリアにまわりこみ、バンパーを形成しています。つまりリアバンパー全体が樹脂のブラックとなっています。これはかなり思い切ってます。もちろん機能性自体もそうですが、機能的に見せる狙いでしょう。そもそも最近の乗用車ではほとんど見ませんが、シンプルなデザインのクルマでこれをやると商用車に見えるリスクがあります。しかしながらファストバックなプロポーションバックドアの考え抜かれた面構成、凝ったデザインのリアコンビランプなどにより、デザイン的にはそれほど違和感なく採用できています

 

さいごに

デザイナーの意図はわかりますし、マツダらしくそれがあまり違和感なく表現されています。気になるのは、むしろそのデザインの狙いに違和感を感じるところです。

カニカル感、道具感、無機質なタフさが感じられるデザインは、マツダが掲げる生命感から随分と異なる方向性です。これは何を狙っているのでしょう?

わたしの推測ではアメリカ市場を重視したからだと思います。これまでマツダSUVはどれも洗練されたエレガントさが基本で、ドイツ御三家のSUVに近かったと思います。しかしながら御三家が狙っている層はマジョリティではありません。アメリカのマジョリティはSUVはタフさを期待します。ピックアップトラックの延長線上にSUVがあるという感覚です。今回マツダはそのマジョリティを狙いたいと考えたのでしょう。ビジネス的にアメリカでの台数が欲しいのは理解できますが、ここまでデザインのフィロソフィーから乖離させたのは驚きです。アメリカの営業の言う通りにしたのか、サーベイの結果なのか。

CX-30がメインストリームとして存在するなかで、MX-30は電動車がメインの派生車種なので、ある程度「外し」があっても良いという判断なのかもしれませんが、「魂動」でタフなSUVは表現できなかったのでしょうか。デザインを通じたブランドコミュニケーションという観点からすると残念な判断です。

またアメリカのマジョリティを狙う割には、ファストバック風という変化球だったり、観音ドアという一般的でないドアだったりしているところも「新しさ」なのかもしれませんが、クルマのコンセプト自体も分かりにくいと感じます。