元・自動車商品企画者のひとり言

クルマのデザインについていろいろ考えることが多いので、勝って気ままに書いてみることにした

ホンダ e について書こうと思ったが...

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トヨタ、日産、スバル、マツダは取り上げたので、次はホンダかなと考えていました。ホンダですと主力車種のフィットがモデルチェンジをしていますし、話題性と言うことであればホンダeを取り上げても良いのかもしれません。ホンダeは丸形のヘッドライトだったり、いたずらにダイナミックさや迫力を追求せず、デザインの表現も抑え気味であるところが、タイムレスなデザインだと思います。そこに初代シビックのオマージュをうまく現代的に織り込んでいます。違和感のある部位はなく、うまく仕上げられていると思います。

この車の場合気になるのはデザインと言うよりも立ち位置、ホンダの立ち位置かもしれません。なぜそう思うかというと、この車について「ホンダらしい」と称されることが多いからです。ホンダ自身もホンダeはホンダらしさを重視したと言っています。はたしてホンダらしいとはどういうことなのでしょうか?そして他のホンダ車はなぜそれほど感じられないのでしょうか。何となくはわからなくもないですが、人それぞれ違った「ホンダらしさ」を持っている可能性があります。

実はホンダの社員の多くも「ホンダらしさ」が何かはわかっていないようで、とある記事によるとホンダeの開発に当たっては、社員がそれを共有するために浜松にある本田宗一郎の博物館まで出向いたそうです。ブランド・マネジメント的にはすごいことが起きていると思います。メーカーが自分がどういうメーカーでありたいのか、どう見られたいのかをわからないまま商品作りを行っていて、それを知るために外部にヒントを求めに行っているのです。その記事では「ホンダらしさ」が何かまでは明確には書いてないのですが、ホンダeの開発においては本田宗一郎の、ホンダは他社の真似をしないと言う趣旨の言葉を参考にしたそうです。「他社のマネをしない」というのが「ホンダらしさ」(すくなくともそのうちのひとつ)と推測されます。

ここで気になるのは、「ホンダらしさ」というのはホンダというブランドが提供するコアなバリューだと思うのですが、これがきちんと定義されて、ホンダ内で共有、浸透されたのかというところです。当然他とは違えば何でも良いということではなく、どんな価値を与えることで他と違うと認識してもらうかというエレメントを定義しなければなりません。そういうキーワードやフレーズ自体はたいてい表には出てこないのですが、ブランド内では定義され、商品のコンセプトだったり、デザイン・フィロソフィーだったり、コミュニケーションだったりに一貫性が出てきます。ホンダではこれらを含めてきちんと定義され、共有されているのでしょうか。

日本にいると感じませんが、最近は韓国車も世界に通用するデザイン力を身に付けてきているので、最近のホンダ車(ホンダ車らしいとされるホンダeを除く)を見るとなんか無国籍な感じがします。日本マーケットよりもはるかに大きな世界に輸出して成り立っている企業ですので、ブランドとしてのアイデンティティがきちんと確立されてないとそうなっちゃいますよね。とても心配です。

ちきんとブランド・アイデンティティを定義して、ホンダe以外の車づくりにも反映して欲しいです。

マツダ MX-30 - 無機質な魂?

マツダはデザインの完成度の高さを標榜しているだけあって、あまりデザイン的に突っ込みどころがないので取り上げる機会はないと思っていたのですが、MX-30はこれまでのマツダとは違う物を感じるので、それが何なのかについて考察してみたいと思います。

 

はじめに

マツダは、ブランド内のデザインの統一感が国産メーカーの中ではあるほうだと思いますが、ディテールに共通の要素は採用しているものの、ドイツ御三家のように、デザイン言語を決めてそれをすべてのモデルで活用するという手法ではないようです。それでもこれまでのクルマに共通したマツダらしいデザインを感じさせていたのは、彼らのデザインフィロソフィーである「魂動」デザインによるものです。これは簡単に言うとクルマに魂を吹き込む、生命感が感じられるデザインを追求するということです。

 

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サイド・ビュー

他のモデルとデザインの方向性が違うなという漠然とした印象はサイドビュー全体からも感じられます。直線を基調としたデザインは無機質な印象があり、マツダのフィロソフィーの「生命感」が感じられません。

そして目に付くのが幅広で上面をフラットにしたブラックのホイールアーチ・モールディングです。ここも角張った造形で、とても力強くて「タフ」な印象を受けます。また、このホイールアーチ・モールディングと一体となったシルおよび前後バンパー下部のブラックパーツにも目がいきます。ボディカラーの面積が軽減するので視覚的重たさが減るのですが、それと同時に「プロテクター」のように見えますので、「がんがん使える道具」的な機能性を連想させます。

ディテールの話から入りましたが、あらためてプロポーションを見ていくと、最近のクルマで気になる、Aピラーと前輪の間の距離は横置きFFの割にはとれています。先述の幅広なホイールアーチ・モールディングが収まっています。そしてフロントオーバーハングも健闘していると思います。ただ、リアのオーバーハングとのバランスでいえば、リアはもう少し長くしたほうが余裕が感じられるところですが、全長が長くなってしまいますのでこんなものでしょうか。

リアはバックガラスをかなり寝かせてファストバック的なプロポーションとしています。SUVはスポーツ「ユーティリティ」ビークルなので、荷室という「ユーティリティ」を考えると、このプロポーションはちょっと変化球です。 メルセデルのGLCクーペ、BMWのX4のような狙いでしょう。

実際の荷室容量は調べてませんが、視覚的には間違いなく普通のSUVよりはリアのボリューム感が少なくなっています。一方でフロントのヘッドライト、バンパーはかなり直立した面にしています。フロントはSUVらしい力強さは出るのだと思いますが、リアが軽快な割にノーズのボリューム感がちょっと多いかなと感じます。

サイドのデザインにインパクトを与える要素としては、いわゆる観音ドアが採用されている点があります。しかしその狙いなどを考えだすとクルマのコンセプトに深く関わってくるので、マツダが言う通りお客さんが自由な発想で使うためということにしておきましょう。

キャラクターラインはというと、あまり明確な物は入っていません。躍動感とか安定感とか意図的に感じさせないところも、機能的な潔さを感じます。キャラクターラインがないとボディカラーの面積が増える部位で重たさを感じることが多いですが、MX-30ではルーフを別カラーとして、さらにはその見切りの意味もかねてCピラーにガーニッシュを入れることで、明確なキャラクターラインがなくても重たさは感じません。

一度気づくと気になるのがホイールアーチ・モールティングが前後で結構太さが違うところです。これも後ろ半分のボディカラー面積のバランス調整が狙いなのでしょう。

 

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フロント・ビュー

フロントも極力デザイン要素を減らそうとしているのがわかります。ユニットを共用しているというのもあるのでしょうが、フロントのターンインジケーターはスリムな形状の物をバンパーのブラックアウト部にいれることで目立たなくしています。空気取り入れの開口部もブラックアウト部に収めているので、とてもすっきりさせることが出来ています。

最近のマツダが採用している、グリルのクロームフィニッシャーがヘッドライトまで回り込むという手法は採用していません。それどころかグリルにはクロームの部位がありません。薄型のグリル、そしてそれがヘッドライトと一体的にデザインされ、クロームという華美な処理を採用してないというのは、とてもスポーティな処理です。

 

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フロント・クォーター・ビュー

しかしながら、高さ的にボリューム感のあるノーズにスリムなライト、グリルを採用しているので、その下の厚みの処理に苦労してます。下部のブラックアウトも結構な高さまで適用してますが、それでもバンパーのボディカラー部のボリューム感はかなりあります。

ボリューム感のある顔まわりですと、普通は少なくともグリルは高さのあるもの出してバランスをとろうと思うでしょうが、あえて鋭い目つきに見えるスポーティなデザインのグリルとライトをここに収めてインパクトを出したのでしょう。

ちなみにこの写真だとホイールアーチ・モールディングの大きさの違いは遠近法により目立ちませんが、本当はどの角度から見ても違和感がない造形にしてほしいところです。

 

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リア・ビュー

ここでもライセンスプレートの装着に必要な面以外には最小限のラインしか入れていません。

マツダは他のクルマでもライセンスプレートフィニッシャーのパーティング・ラインを目立たなくさせようと注意を払ってきました。今回はルーフ、Cピラーが別カラーになるのをうまく利用して、上側のパーティング・ラインがほぼ気にならない位置にすることができました。下側はバッジが装着される部位として、目立たないようにした苦労が伺えます。その結果、バックドアは余計なデザイン要素に頼らず、面構成だけで勝負しながらも退屈させないデザインとして仕上がっています。ライセンスプレートをなるべく下方に持っていってエンブレムまわりの面を確保し、存分に表現しています。

しかし、ちょっと違和感がなくもない。ライセンスプレート照明のためにバックドアの表面からライセンスプレートの周りを台形状に一段落としていますが、真後ろから見るとそのラインがリアコンビランプのグラフィックの内側のラインと、さらにはバックドアから外側にボディに回り込んでいるラインとも一致していて、ちょっとくどさを感じさせているのかもしれません。

 

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リア・クォーター・ビュー

リアコンビランプがとても凝った造形になっている事に気づきます。円形に点灯するテールランプはマツダが多くのクルマで採用しているデザイン要素ですが、MX-30では円筒形のランプがボディに嵌め込まれているようでになっています。おもしろいデザインなのですが、ボディ面に無機質な円筒が刺さっているというのはとてもメカニカルだと感じます。他車の例で言えば、フェラーリ458も似たようなデザインです。

先述のブラックのホイールアーチ・モールディングはリアにまわりこみ、バンパーを形成しています。つまりリアバンパー全体が樹脂のブラックとなっています。これはかなり思い切ってます。もちろん機能性自体もそうですが、機能的に見せる狙いでしょう。そもそも最近の乗用車ではほとんど見ませんが、シンプルなデザインのクルマでこれをやると商用車に見えるリスクがあります。しかしながらファストバックなプロポーションバックドアの考え抜かれた面構成、凝ったデザインのリアコンビランプなどにより、デザイン的にはそれほど違和感なく採用できています

 

さいごに

デザイナーの意図はわかりますし、マツダらしくそれがあまり違和感なく表現されています。気になるのは、むしろそのデザインの狙いに違和感を感じるところです。

カニカル感、道具感、無機質なタフさが感じられるデザインは、マツダが掲げる生命感から随分と異なる方向性です。これは何を狙っているのでしょう?

わたしの推測ではアメリカ市場を重視したからだと思います。これまでマツダSUVはどれも洗練されたエレガントさが基本で、ドイツ御三家のSUVに近かったと思います。しかしながら御三家が狙っている層はマジョリティではありません。アメリカのマジョリティはSUVはタフさを期待します。ピックアップトラックの延長線上にSUVがあるという感覚です。今回マツダはそのマジョリティを狙いたいと考えたのでしょう。ビジネス的にアメリカでの台数が欲しいのは理解できますが、ここまでデザインのフィロソフィーから乖離させたのは驚きです。アメリカの営業の言う通りにしたのか、サーベイの結果なのか。

CX-30がメインストリームとして存在するなかで、MX-30は電動車がメインの派生車種なので、ある程度「外し」があっても良いという判断なのかもしれませんが、「魂動」でタフなSUVは表現できなかったのでしょうか。デザインを通じたブランドコミュニケーションという観点からすると残念な判断です。

またアメリカのマジョリティを狙う割には、ファストバック風という変化球だったり、観音ドアという一般的でないドアだったりしているところも「新しさ」なのかもしれませんが、クルマのコンセプト自体も分かりにくいと感じます。

 

 

スバル レヴォーグ - スバルはどこへ行きたいのか

今回はスバルの最新モデルであるレヴォーグを取り上げます。

 

はじめに

スバルは、「トヨタじゃつまらないけど輸入車買うほどお金をかけたくない」という客層を、マツダとともに狙えるブランドだと個人的には思うのですが、ブランドが提供する価値がいまひとつわたしにはよくわからないんですよね。

水平対抗エンジン、昔のWRCの活躍、今のトレンドの半自動運転であるiSightなど、(マツダと違って)わかりやすい価値のある要素は結構あるのですが、それらがブランドとして伝わってこないですね。有名人を使ったCMという昭和なアプローチをしているのがもったいない。 

ブランド戦略も気になりますが、そんなスバルの最新モデルですのでデザインも見てみる価値があるでしょう。

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サイド・ビュー

プロポーションとしては横置きのFFですのでAピラーと前輪の距離は極めて短いです。一方で最近の車は皆そうですが、フロントのオーバーハングがとても長くなっています。結果的にノーズ部分(Aピラーより前)における車軸の位置が随分と後ろ寄りで変なバランスだなぁとの印象を受けます。また後述の通りラジエーターグリルを中心にボリューム感を強調した造形としているためフロントオーバーハングの長さ、重さがいっそう目立ちます。

ホイールアーチの上面をややフラットにしているのが特徴です。上面がフラットなので、車両の長さが強調されます。同時にホイールアーチが多角形のようになり、堅牢さが表現されています。SUVだとたまに見かけますが、ワゴンですので、その印象は必要だったのかは疑問です。

サイドウインドウのグラフィックの上面は車両後方でルーフライン以上に下げていることから、リヤを軽快に、スポーティーハッチバックのような表現したかったたのだと思います。ただしこのクルマはステーションワゴンですのでそれをやると機能性というか荷室が広そうという印象が薄れるトレードオフがあります。機能よりも軽快さを重視したようです。

ウインドウのグラフィックの下端は、リアに向かって上昇してますので、リアドアあたりではどうしてもボディーの面積が増えます。そのことに対してドアハンドル部のプレスラインはもう少し明確にしたほうが軽快さが出たのでしょうが、リアフェンダーの面との兼ね合いでしょうか。

ウインドウ下端のラインはリア・ドアまでは直線的に上昇してますが、リアクオーターガラスで急激に跳ね上がっています。もしかして将来登場するであろう次期WRXとリア・ドアのアウター・パネルを共用する気なのでしょうか。いずれにしてもボディ面積がここで増えるので、フェンダーにラインを入れてます。明確な面で構成され目立ちますが、スペースが少ない中で跳ね上げてリアコンビランプにつなげており、前半分のライン構成に対して随分と急になってます。

先に述べたウインドウグラフィックの急なはね上げとも相まって躍動感のあるラインが車の後ろ半分に集中してしまった印象が否めません。

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フロント・ビュー

ヘッドライトをできるだけ両端に配置してフロントのワイドさを強調しているのは最近の車ではほぼ皆が目指していることです。ラジエーターグリルがフードと一体となって左右のヘッドライトから立体的にせり出しているデザインとしたのが特徴です。かなりのボリューム感です。

バンパーのデザインもこれもよくある手法ですがエラを張るように左右インテークをデザインし、ワイドさと迫力を出しています。ラジエーターの開口部もハの字形状となっていてこちらは安定感を表現しています。 

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フロント・クオーター・ビュー

この画像以外にもいくつかフロントクォータービューの画像を確認しましたが、サイドビューのところで述べたリアフェンダーの面に違和感が感じられます。これは後述の贅沢なショルダーラインを実現するためにリアに向かって車幅をあまり絞り込むことができなかったからではないかと思います。サイドビューでは違和感がなくても、クルマのまわりを回って観察していくと、(世の中の多くのクルマのように)絞り込まれていれば見えなくなるリア・オーバーハングが相変わらず見えるので違和感がでます。先述の通りリアには集中的に配置された跳ね上げライン構成があり、それらが余計に目立たせてしまっています。デザイン検討ではモデルをターンテーブル上で回してみると思うんですど、だれも違和感なかったのかなあ。

 

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リア・ビュー

そのリアフェンダーの面構成がリアでは幅広なショルダーのラインとして表現されています。車が安定して見えますし、なんといってもとても豊かに感じます。このクルマのデザインのハイライトでしょう。横一直線のリアコンビネーションランプも、車をとてもワイドに見せています。先代モデルにもわずかに面影がありましたが、左右リアコンビランプの間(ライセンスプレートフィニッシャー)ランプが入り込むようなデザインを採用しています。フロントのグリルもこのアイディアを応用したということだと思います。

バンパーの中央下方のブラックアウトはかなりの高さまでやっていて、バンパーのボディカラー部が随分少なくなっています。リアにそもそもボリューム感があるので、適度なボリューム感になっていますが、バンパーの存在という点ではもう少しボディカラーを残した方が心理的に安心できるデザインになったと思います。

さらに左右もブラックアウト領域があります。サイド、リアクォーターから見たときのバンパーの視覚的重さを抑えたかったのだと思うのですが、こういう要素を入れる前にウィンドウグラフィックの跳ね上げとかリアフェンダーの面の張り出しなどを調整してみてもよかったと思うのですが。

ブラックにするにしても、リフレクター周りにあるプロテクターのような無骨なデザイン要素を入れているのはなぜなのでしょう。あえてこの場所でタフさの演出なのでしょうか。

フロントの「エラ」やリップ・スポイラーの端の処理でも気になったのですが、中央部のブラック部分の端が太い縁どりのように造形されています。洗練さに欠け、ややくどい印象ですが、これらもあえて無骨さが狙いだったのでしょうか。 

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リア・クオーター・ビュー

ライセンスフィニッシャー部を後方に突き出すように立体的にして、ボリューム感を出しています。そこにリアコンビランプが立体的に組み合わさり、新鮮な表現ができていると思います。リアコンビランプがここまで明確に「コ」の字を描くというのは一見不思議な形状ですが、ライセンスフィニッシャーが立体的にランプに入り込んだ状態だと思えば、リアコンビランプ自体は一般的な台形形状にも見えて、それほど奇天烈なデザインにはなってません。新しいデザインでありながら違和感をおさえむことが出来ていて良いアイディアだと思います。

 

さいごに

リア・フェンダーの造形をもっと玉成できていれば、と思わせるのが惜しいところですが、個人的に最も気になったのはバンパーを中心にとても無骨な造形が見られる点です。あえてドイツのプレミアムブランドの「洗練」とは違う方向にしているのだと思いますが、このデザインはなにを狙っているのでしょう。

本来は、そのブランドがどういう層に、どう認識されたいのか、そしてそのためにデザインは何を伝えるべきなのかというミッションがあると思います。残念ながら日本の自動車メーカーでそれができているブランドはほとんどありませんが、マツダがそれを意識しているだけに、スバルもそのあたりから考えるともっとメッセージがクリアになると思います。

トヨタ スープラ - 木目「調」の内装に思いをはせる

前回フェアレディZについて書いたので、どうしても比較されるトヨタスープラについて取り上げてみます。デザイン的にはぱっと見で好き嫌いが分かれるクルマですが、なぜそう思わせるのか、興味深いです。

 

はじめに

このクルマは開発と生産がBMWであるにしても、単なるバッジ違いでもないですし、そもそもそういうことは買う側(買いませんが)からすると関係ありませんので、先入観は持たずにトヨタのクルマと言うことで見ていきます。

全体を見渡した第一印象は、人間の筋肉を連想させるような面の作りが、秘めたる力を連想させます。車全体にわたってそれが表現できている点で、面の作りから一貫した迫力が感じられます。

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サイド・ビュー

やはりサイド・ビューから見ていきます。直6エンジン縦置き搭載ですから、V12と並んで現実的な乗用車としては最長のエンジン長が必要となり、Aピラー下端から前輪まではかなり長く、いわゆるロング・ノーズといえるレベルです。フロント・オーバーハングはもう少し短いとよいかなと思いますが、上から見たときの車両中心前端を尖らせているので、真横で見るとそう見えるのかも知れません。

リアにはダックテールを設けているのは高速走行時の空力的な意味もあるでしょうし、単純にスポイラー的な印象としてスポーティに見えます。

リアのフェンダーが最大の注目ポイントでしょう。量産車ではなかなか見ないレベルで張り出してます。後輪に伝わるパワーがとても強いことが表現されています。そのフェンダーの前方延長上にあるドアの処理を見ると、ドア・パネルに別部品のパネルがかぶせてあります。これは生産の制約上こうなったのか。デザイナーが本当はどうしたかったのか分かりませんが、ドア・パネルとの接合面にスリットが入れられて、あえて別部品であることを強調してることから、後付けのオーバー・フェンダー、すなわちノーマル車をもとに改造されたレーシングカーの無骨なイメージとしたかったのでしょう。そう考えると、ボンネット上のダミーのスリットも意図が分かります。やはりレーシングカーのエア・アウトレットをイメージさせたいのでしょう。

サイド・ウィンドウのグラフィックは、上部のラインがルーフ・ラインの曲線を無視して直線的に下降しているのは、下向きの勢いが強く感じられますが、結果的にルーフが厚く見えて、ボリューム感がでてしまってます。スポーティなクルマでルーフという重心高が高い所が重く見えるというのはとても気になるところです。「流行りの?」ブラック・ルーフにするとずいぶんと印象が軽やかになるでしょうが、Cピラー以降はどこでボディ・カラーと見切るのか難しいところです。その点フェアレディZは考えられてました。

ウィンドウ・グラフィックの後端は跳ね上げていることに加えて、ドアハンドル部、ドア下端に入る2本のプレス・ラインがゆるやかな後ろ上がりとしています。他のデザイン要素が強いので、ここはあえて抑え気味なのでしょう。

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フロント・ビュー

ヘッドライトとその面が、フェンダーとは独立した面と見せるようなデザインとしています。これも、オーバーフェンダーというレーシングカーの要素をイメージさせています。そのためにここにもダミーのスリットとインテークを配置していますが、ここくらいは冷却か空力か何らかの機能を持たせても良かったのではないでしょうか。

そしてバンパーは、また別のデザインの塊になっています。ライセンス・プレート両脇から下りて、L字(逆L字)状に両脇に伸びる形状、エンジン・フードのプレス・ラインもそこから流れるように引くことで、フォーミュラワンのノーズとフロント・ウイングを思わせる造形としているのだと思います。ヘッドライトの下端を車両中心に延長させているのも、そのデザイン・モチーフを強調し、視線を誘導するためでしょうが、ヘッドライトを人間の目のようにとらえる人が多いので、ちょっと違和感はあるでしょう。

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フロント・クォーター・ビュー

ワイドなリアフェンダー越しにダックテールが見えるというのは、スポーティだなあと素直に思います。一方でやはりルーフの厚さが気になります。パゴダルーフとはいえ、昔のハイルーフ仕様のようです。贅肉のように見えてしまうのが残念です。

先述のフォーミュラワンのウイング形状のボディ・カラーの部分と、フロント・フェンダーのスリットのラインは車両の両端で連続性を持たせていることがわかります。フォーミュラワンのノーズの塊が車両全体で浮かないようにうまく一体性を持たせているといえますが、同時にその擬似的なラインによってクルマの顔が切り取られて、お面をかぶっているかのようにも見えてしまっています。

その一連のフォーミュラ・ノーズデザインの一部と言っていいのだと思いますが、フロントのリップ・スポイラーがサイドまで回り込み、GTカーのスプリッターのようにデザインされています。あわせてサイドのシルの下にもスポイラーが装備され、あたかもアンダーフロアもGTカーのようにフラットで整流されているかのような演出がなされています。

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リア・ビュー

リアのコンビネーション・ライトとその下のバンパー面も左右のダミーのスリットによりフェンダーから独立したデザインとすることで、オーバーフェンダー感を出しているのは、フロントと一貫性があります。そのスリットは結果的にはリア・コンビネーション・ライトと一体化して見えるので、車両の外側下方に視線を誘導するので、ワイド感、安定感は感じられます。

バンパーは、下端のブラックアウトによりボディ・カラー面積減少させて全体の重苦しさを軽減していますが、バンパーとして認識できるに十分なボディ・カラーの領域は残っています。そのバンパーに入るラインは台形状で安定感の表現をしていますが、やや中央よりなので、車幅が狭く見えます。リアは結構デザイン要素がビジーなのでここまで明確なラインにしたくてもよかったのではと思います。やるにしてももう少し外に追いやっても良かったのかとは思いますが、先のフェンダーのスリットに近づけるとビジーとなるので、ある程度距離を持ちたかったということでしょうか。

やはりルーフが気になります。ルーフのサイドの面がずいぶんと切り立っています。ここをもう少し寝かせられれば、「ハイルーフ感」は抑えられて、ずいぶんとすっきりしたのだと思います。

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リア・クォーター・ビュー

バンパーのブラック・アウト部分は車両後方に突き出ており、ディフューザー調な要素なども織り込まれ、かなりマッシブなデザインで、形状だけ見ているとかなり重そうですが、ブラックなので気にするほどにはなっていません。

 

さいごに

ルーフの重たさが気になるものの、それ以外は狙いが明確で、それが伝わるようにデザイナーがきちんと仕事をしたと思います。トヨタとしては16年ぶりのフラッグシップスポーティカーの復活と言うことで、これまでのモータースポーツ活動の集大成的にスポーティイメージの訴求、個性の主張が最大の狙いだったのだと思います。そしてデザイナーが、フォーミュラワンやGTカー調(あくまで「調」です)のデザイン要素を多数織り込み、その表現も、嫌われることを厭わない覚悟で強調して、モータースポーツ=スポーティさを演出するというデザインとしました。

ただ、ダミーのスリットを多用した、「オーセンティックさ」に欠ける点がイヤな人はいるでしょう。スポーティカーですので性能の追求と関係ないデザイン要素が多いのはフェイクだと。そして、あまりにレーシングカー、カスタムカー風な後付けパーツ的な要素が多く、洗練さ、大人の雰囲気を重視する人はまず食指は動かないでしょう。そういう方にはBMW Z4という棲み分けなのかも知れませんが。

古くから自動車業界には、内装の仕上げに木目調というのがあります。木目ではないけど、雰囲気だけでも木目をどうぞと。アルミ調、チタン調、最近ではピアノブラック調などなどもあります。すべてを本物の素材で製造できるのはロールス・ロイスくらいですので、「調」もよいのですが節度というものがあるよね。こんなことを考えさせられたクルマです。

日産フェアレディZ - カラオケのメドレーソング

クルマのデザインについてブログを書こうと思い立ち、さて最初はどのクルマにしようかと探していたら、出ました、最適なクルマが。

日産フェアレディZ

日本を代表するスポーティカー、12年ぶりのモデルチェンジ。いいじゃないですか。

まだプロトタイプで、色もイエローしか公開されてませんが、見ていきましょう!

 

第一印象

「厚化粧」が流行の業界において、デザイン要素をおさえた手法は、スッピンで勝負にきている潔さを感じます。しかし「ラインを抜くのは足すより難しい」と言うデザイナーもいます。さて、細かく見るとどうなんでしょうか。

 

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サイド・ビュー

まずはプロポーションから見てみましょう。FRらしいプロポーションですが、縦置きV6エンジンしか想定してないと思われ、それほどロング・ノーズと言うほどではないです。キャビンは2シーターですから小さくまとまり軽快感があります。ルーフ・ラインは直線に近い形で後ろに向かってずーっと下がっていきます。リアにデッキをもたせたり、ダック・テールのような処理はありませんので、下向きの勢いが強く、地面を這うような安定感が感じられます。ルーフ・ラインに沿ってシルバーのアクセントが入ってますが、このルーフラインを強調したかったのでしょう。写真のモデルはルーフからリア・ガラス周辺がブラックアウトされていますが、これは全車そうなのかわかりませんが、このおかげでキャビンの視覚的な重さが軽減されてます。これがないとずいぶんと印象が変わってきそうです。

フロント・オーバーハングは先代同様エンジンを後退させたレイアウトなのでしょう。昨今のFFを見慣れていると短めに見えるでしょうか。リア・オーバーハングはスポーツカーらしいアジリティを表現するため短めです。

ディテールを見ていくと、プレス・ラインはドア・ハンドルあたりの後方下がりのものと、ドア下端に同様の後方下がりのものがあります。ルーフラインとあいまってクルマが地面へ接地するという印象を強くしています。逆に躍動感を演出しているのはウィンドウ・グラフィックの後端の跳ね上げくらいですので、総じてサイド・ビューは安定感を強く受けます。このウィンドウ・グラフィックは先代(Z34)ぽくもありますが、Cピラーのエンブレムからすると初代(S30)のオマージュなのでしょう。

シルについては、後半に頂点をもった三角形状にブラックアウトしているのは、ボディの厚み=視覚的重さを軽減したことと、リアのフェンダーのボリューム感の演出になっています。Z34が相当ボディに厚みが感じられたのでその反省でしょうか。

リアコンビネーション・ライトというか、リアの面自体を途中で折りを入れて少しサイドまで回りこむように造形されています。これはリア・オーバーハングを短く見せる効果がありますが、実際のオーバーハングもそれほど長く無さそうですので、必要だったのでしょうか。

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フロント・ビュー

なんといっても目に付くのは、定規をあてて切り取ったかのようなエア・インテーク。このクルマはグリルがないし、ヘッドライトに派手な演出もないので、ここにまず目がいきます。開口部でよくあるのは台形にして安定感を表現するか、逆台形にして空気の流れを演出するかですが、このクルマはきれいな長方形です。バンパーやクルマ全体の造形になじませようとする努力は皆無です。相当な主張です。でも一体何をそこまでして主張したかったのでしょうか??デザイナーのインタビュー記事に答えがありました。S30のオマージュだそうです。S30の写真を見てみるとたしかに長方形ですが、途中に鉄のバンパーというデザイン要素が入っているので、開口部が長方形だったという印象を持っている人はあまり多くないのではないでしょうか?

S30だと、ヘッドライト周囲のコンケイブは多くの人が記憶しているはずで、このモデルの下端にも若干コンケイブの面を持たせているのがオマージュだというのはわかります。しかしながらそのコンケイブの面とボンネットの面が交わったすぐそばで例の長方形が切り取っているので、面が小さくて視覚的に脆弱な印象を受けます。

開口部の左右のバンパー面には目立ったデザイン要素を持たず、チンスポイラー状の面構成と、左右端に縦に走るラインだけで処理してます。特に縦のラインはあえてインテーク(風)のデザイン要素などをいれなかったのは、潔いですが、もうすこし余白の面の表情を豊かにした方が退屈さがなくなったと思います。いずれにしても長方形にしか目がいきませんが(笑)。

 

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フロント・クォーター・ビュー

このアングルだとエア・インテークが完全な長方形には見えなくなるので、少しは違和感が軽減されます。しかしながら今度は、フロントからみたときは良いアクセントだった左右の縦のラインに唐突感がでます。フロント・ビューでは長方形にマッチしてましたが、そもそも長方形がボディの他のどのデザイン要素ともマッチしてないし、縦ラインが主張の弱めなデザイン要素ですので、ぱっと見は単なる縦の線にしか見えてません。

一方でワイド感を主張するリア・フェンダーは、特にアクセントとなる主張をいれない、自然な面構成で好感が持てます。

 

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リア・ビュー

バンパー下部のほとんどをブラックアウトしているのが特徴的です。ボリューム感が大いに削減され、軽快感がでます。しかしサイド・ビューで見たとおりもともとルーフラインがかなり下がっているのでリアのボリューム感は大きくなかったはずです。ここも先代のバンパーが重そうに見えたことの反動かもしれませんが、ちょっとやり過ぎなのではないでしょうか。リア・コンビランプの下にあるパネルのパーティングの下にはボディ・カラーの部位はおそらく10cmもありません。一般の人はこの位置にはバンパー(普通はボディ・カラー)を期待しますので、それがないように見えるというのは違和感であり、ボディが十分に守られているのかという不安につながってると思います。

リア・コンビネーション・ライト周囲全面ブラックアウトは4代目(Z32)のオマージュと思われます。最近のクルマでたまに見られる処理ですので、Z32が時代の先を行っていたということでしょう。ただし、この処理も視覚的なボリューム感の軽減に寄与しますし、リア・ガラス周囲もブラックアウトされているので、全体で見るとリアはちょっと弱々しささえ感じられます。

 

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リア・クォーター・ビュー

ルーフからリア・ガラス周囲がブラックアウトされているのでかなりキャビンに軽快感があります。そのブラックアウトと一体的にデザインされたシルバーのアクセントは、「クルマの全高はここまでです」と視覚的に感じさせる役割があったんですね。ルーフのツートンは多くのモデルがやっていますが、他のデザイン要素と複合的に採用して有意義な使い方をしているのMINI以外ではこのクルマが初めてではないでしょうか。逆にこのクルマでこのブラックアウトがなかったら視覚的にかなり重そうですので、おそらく全車標準装備なのでしょう。

サイド・ビューのところで述べたリア面の折りのため、リア・オーバーハングが短く、リアがワイドに見えますが、そもそもリアのオーバーハングは長くないし、横一直線のグラフィックのリア・コンビランプはそもそもワイド感を強調してるので、やはりこの面の折りは余計だったのではないでしょうか。

 

さいごに 

さて、このクルマはデザイナーも言っているとおり過去の複数世代のオマージュを表現しています。そういうクルマというのはあまり聞いたことがないですが、歌にたとえるならカラオケにある、メドレー・ソングのようなものでしょうか。名曲の特徴をつなぎ合わせると、そのアーティストのファンはよろこんで歌いますが、ひとつの曲として見たときには必ずしも名曲になるとは限らないんと思うんですけどね。あくまで内輪受けな感じがしなくもないです。

代々同じようなデザインが続くヨーロッパのプレミアム・ブランドも、一見先代モデルのデザイン流用?みたいに見えるときもありますが、たいていはデザインの文法が変わらないだけで、表層的なディテールの使い回しと言うことにはなってないのです。

いっそのことすべてS30のオマージュにして「初心に返りました」という説明の方がしっくりくる気がします。まあその辺のコンセプトはいろいろな見方があるので良いとは思いますが、最終的に形にしたときに「もうちょっとなぁ」と思わせてしまっているのが残念です。その狙いに無理があったデザイン要素もありますが、多くはもっと時間をかけて玉成すれば解決できた課題と思います。

 

今回公表されたものはプロト・タイプなので、バンパーとか今から変えて欲しいですが、無理でしょう。マイナーチェンジに期待です。アフターマーケットのエアロパーツ屋さんはこれから楽しいでしょうね。